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【家具の秋山】良質な家具に触れるひと時

【家具の秋山】良質な家具に触れるひと時

まちの案内人にお気に入りのお店やスポットを紹介してもらう、「わたしの散歩みち」。今まで知らなかった楽しみ方やディープな情報を見つけて、このまちの「好き」を再発見する散歩へ出かけよう。研屋町周辺の案内人は「chubby×eight」の尾﨑朝子さん。今回は、尾﨑さんのお気に入りスポットだという『家具の秋山』を深掘りしてみた。

静岡の古着屋『chubby×eight』のオーナー・尾﨑朝子さんの画像

【案内人】尾﨑朝子 さん
研屋町周辺の案内人は、古着屋『chubby×eight』の店主 尾﨑朝子さん。ていねいに集められた一着一着は触るだけで心地よい気持ちにさせてくれる。尾﨑さんならではの独特な嗅覚を駆使し、お気に入り店を紹介してくれた。

日本の伝統技法を継ぐ桐タンス

研屋町の歴史は、徳川家康公が駿府城に在城していたころから続く。槍刀剣の研ぎを行った研ぎ師たちの屋敷がここにあったことが地名の由来だ。次第にほかの職人も集まるようになり、現在は家具や建具、仏壇などを扱う店が軒を連ねている。

静岡市葵区研屋町にある老舗家具店「家具の秋山」の外観画像

そんな研屋町の一角にある1931年創業の老舗家具店『家具の秋山』。間口が狭く奥まで続く町屋形式の店内に入ると、存在感のある無垢の一枚板のテーブルや細部まで繊細に仕上げられた椅子など、ていねいに選ばれた家具や生活用品の器などがそっと置いてある。2階へ上がれば、大小さまざまな桐タンスが並んでいて、伝統技法を生かしつつ現代調にデザインされた桐の家具も同時に見ることができる。

静岡市葵区研屋町にある老舗家具店「家具の秋山」の入り口の画像

桐タンスを製造するほか、多数の家具ブランドを扱う

静岡市葵区研屋町にある老舗家具店「家具の秋山」の取り扱い商品(椅子)が並ぶ画像
静岡市葵区研屋町にある老舗家具店「家具の秋山」で取り扱う食器を眺める女性モデルの画像

日本各地の器もずらりと並ぶ


『家具の秋山』では、創業当時から職人さんを抱え桐タンスの製造を一貫して行っている。家具のなかでも桐タンスというのは「嫁入り道具」としてかつては重宝されていた。淡い白色の桐の木は多孔質なのでとても軽量で、防虫・抗菌効果が高い。そして湿度・温度を一定に保ってくれるので、高温多湿な日本の風土から大事な衣類を守ってくれるすばらしい木材である。

静岡市葵区研屋町にある老舗家具店「家具の秋山」で取り扱う桐だんすの説明を受ける女性モデル

「良い桐タンスというのは総桐と呼び、すべて桐で作られています。安価なものだとほかの木材を合わせてあったりしますね。総桐のよさはぴったりと隙間なく収まること。引き出しを閉めると、空気圧でほかの引き出しが少し開いてしまうほど中でしっかり密着するのが特徴です」

静岡市葵区研屋町にある老舗家具店「家具の秋山」で取り扱う桐だんすの引き出しを開ける女性モデルの画像
静岡市葵区研屋町にある老舗家具店「家具の秋山」で取り扱う桐だんすの隠し収納「しのび」を開ける女性モデルの画像

「しのび」と呼ばれる隠し収納。引き出しの裏側にまた引き出しがあるというのは驚きだ

職人技で再び生まれ変わる

「100年かけて育った木を使った家具は、100年間使う気持ちで扱ってほしい」。これは三代目の秋山慎治さんの言葉だ。日本の伝統を生かして作られた家具は、「修理」が効く。現代は使い捨てだったり、断捨離だったりが流行っているが、かつての日本は「モノを長く、大切に使う」というのが当たり前だった。長年使われてついた傷や材の表面が変色したものも、削り直すことでまるで新品かのように再生させることができるのだ。

「職人さんたちは修理を前提で作っています。なかでも総桐のタンスは多くの接着剤や鉄釘を使っておらず、木釘を使用するので一つひとつバラすことができます。板を洗って、もう一度削り直して組み立て、塗装しなおすことで、また何十年も使えるものに生まれ変わるんです。最近では修理を依頼されることも多いですね」

静岡市葵区研屋町にある老舗家具店「家具の秋山」で取り扱う桐だんすの説明を受ける女性モデル

「砥の粉(とのこ)仕上げ」「焼桐(やききり)仕上げ」「摺り漆(すりうるし)仕上げ」と、タンスの仕上げもさまざま

静岡市葵区研屋町にある老舗家具店「家具の秋山」で取り扱う桐だんすの金具の画像

金具は一点一点職人さんにより手作り。婚礼家具として使われることもあり、華やかさを表現しているものも多い

静岡市葵区研屋町にある老舗家具店「家具の秋山」で取り扱う桐だんすの金具の画像

家具は一人の職人さんだけでは作ることができない。住宅を建てるときに大工さんや塗装屋さんなどさまざまな作業をする人がいるように、桐タンスであれば桐を植樹する人から始まり、桐を製材する人、金具を作る職人、タンスを仕上げる職人と、何人もの手がかかって完成する。どの工程においても、何か一つでも欠けたら桐タンスを作ることはできない。しかし、時代の流れとともに需要が減ると同時に職人さんたちも減っていっているのが現状だ。

「私が20代や30代の時は、桐タンスは生活必需品であり、あって当たり前の存在でした。けれどその考え方は歳を重ねるごとに変わってきました。研屋町周辺でも職人さんが高齢化していて、辞める方も増えています。あと数十年経てば伝統技法が受け継がれなくなるかもしれません」

静岡市葵区研屋町にある老舗家具店「家具の秋山」の店主が家具を設計している画像

受け継ぎ進化させていく大切さ

「そういえば、おばあちゃんの家に桐タンスがあったな」というような、何気なく日常に存在するものが、実は多くの手間暇と想いが込められている。この「当たり前」すぎるものは、なくなっていって初めてそのすばらしさや恩恵に気がつくのかもしれない。

「ネットが主流になっている現代では、本当にていねいに作られたものというのになかなか触れる機会がないかと思います。目にして、触れることで、その質感であったり、その重厚さであったりと、人間の感覚的な部分でモノを感じることができます。買う目的ではなくても、知るという気持ちでぜひ遊びにきてください。日本にこのような伝統技法でていねいに作られたものがあると知ってほしいし、また若い人たちの視点も教えてもらいたいですね。昔ながらを作り続けることだけがいいことではないと思っています。時代とともに伝統も進化していければいいなと思います」

目に見えない部分にこそ細やかな配慮がされている日本の伝統技法。そんな家具に触れられる機会が減っている今だからこそ、『家具の秋山』を訪れたい。

静岡市葵区研屋町にある老舗家具店「家具の秋山」の内観画像
静岡市葵区研屋町にある老舗家具店「家具の秋山」で取り扱う食器の画像
静岡市葵区研屋町にある老舗家具店「家具の秋山」で取り扱うスタンドチェアを試用する女性モデルの画像

北海道のデザイナーが制作したスタンドチェア。底が丸く加工してあり、心地よい揺れを感じられる。赤い座面は針山をイメージしているそう

案内人からのおすすめポイント

お店の近所にこんなに素敵な家具屋さんがあるなんて! 近々新生活をするんですが、ここでひと通り揃えられたら、木の温もりの感じられる素敵なお部屋になるのになぁと妄想を膨らませています。お店の方も素敵ですのでぜひ何でも相談してみてください。


撮影:森島 吉直/モデル:鈴木 茉吏奈/衣装提供:chubby×eight

ライター
町 紗耶香

フリーランスの編集・ライターとして雑誌や広告に携わる。次世代につなげたい伝統・文化や、大切に育まれた人柄・物事を、本質から伝えたいと日々精進中。

紹介スポット

静岡市葵区

家具の秋山

アンティークを“生み出す”場所。家具の経年変化を楽しむ暮らし

更新日:2023/4/5
コラムシリーズイメージ

わたしの散歩みち まちの案内人が紹介するあのお店のこと、あの店主のこと。そして、このまちの「好き」を再発見する散歩へ出かけよう。

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