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【第24回】梅雨のジメジメよ、さようなら。体感温度-5度の“ひんやり”映画3選

不条理のダシでグツグツ煮込まれた、狂気と笑いのミルフィーユ鍋

筆者:こしあん
映画・海外ドラマ、読書、お笑い、カメが大好き。特技はイントロクイズ(80年・90年代ソング限定)。
怖がりのくせにホラーとミステリーが大好きで、生まれ変わったらFBI捜査官になりたい。
休日にどれだけ家にこもっていてもまったく苦にならない超インドア派。
ゆるい解説と小学校から上達していないイラスト(ときどき)で、好きな映画を紹介していきます。

体感温度-5度の“ひんやり”映画3選

梅雨入りしたとたんに晴れの日が続くという、安定の「梅雨あるある」状態ですね。
夏が苦手な私は、「あーあ、これから雨が続いて、どんどん暑くなるのかぁ」と、早くもうんざり気味。
そんな憂鬱を忘れさせてくれる、いろんな意味で“ひんやり”しちゃう映画をご紹介します。

ダークレイン(2017年)

何コレ……笑笑笑。ずーっと「何コレ、何コレ」って言いながら観ちゃう。
「恐怖と笑いは紙一重」ということを体現したシュールなパニック・ホラーです。
予想の斜め上どころか、あらゆる角度からいろんなものが飛んでくる作品。


舞台は1960年代のメキシコ。記録的な豪雨により、辺鄙な場所にあるバスステーションに閉じ込められた8人。バスの切符売りのおじさん、妻の出産のため早く病院に行きたいというヒゲの男、夫から逃げてきたというワケあり妊婦、謎の言葉を話すシャーマンのような怪しい老婆、学生運動に参加しているというメガネの医学生、バスステーションに住み込みで働くおばさん、病気のため体に機械をつけた少年とその母親。

電波の悪いラジオからは、雑音まじりに「これは普通の雨ではない……」という声が途切れ途切れに聞こえてくる。バスステーションに充満する不穏な空気。
やがて一人が口から泡をふいて感染症のような症状を起こし、そのあまりの異常さに8人はパニックになり……というお話。

不穏な空気に満ちた湿度の高い前半の恐怖の予感から一転、あの展開! スゴイ! 全く予想外の方向への着地。こんなこと、よく思いつくな~と感心しました。
今までに観たことのないタイプの映画。思いもよらないツボを押され、感じたことのない感情が湧き上がることは間違いない。
嵐の夜のバスターミナルというワンシチュエーションで、ここまで飽きさせずに最後まで引き付けるってスゴイ。

時代設定が1960年代なので、わざと古く色あせたフィルムのような映像も良いし、昔の怪奇映画を思わせるおどろおどろしい古臭い演出が、不安感を倍増させています。

ハチャメチャなのに、意外に深いメッセージも込められていたりして、超哲学的。
いろんな意味でゾっとします。ものすごい作品です。

ヴィジット(2015年)

『シックス・センス』は好きだけど、『アンブレイカブル』でアレ? ってなり、『サイン』でガッカリして、もうシャマラン作品は観ない! と誓ったのですが、『ヴィジット』が評判良さげなのでちょっと気になりつつ、「でもなぁ、シャマランだしなぁ、きっとまたガッカリしちゃうんだろうなぁ」なんて思うこと1年半。試しに観てみたら……めちゃくちゃ面白いじゃないか!
シャマラン監督よ、今まで疑っていて、ごめんね、ごめんね~。

あらすじはというと、家庭に問題を抱え、子どもながらにいろいろ背負っちゃってる姉弟が、母親がバカンスで留守にするため、一度も会ったことのない祖父母の家に行くのだが、そこで……というお話。最初は優しく出迎えてくれたけれど、夜になるとおばあさんの様子がおかしい。おじいさんに聞くと、もう歳だし、病気なんだと言われる。そんなおじいさんも、ちょっとずつ様子がおかしくなる。

なんだろう、この得体の知れない怖さ、予想できない行動を取ってくる人間の不気味さ。心霊系よりよっぽど怖い。

なんとなく途中でオチはわかるんだけど、わかっても怖さは変わらないので、ずっと「こんなの無理、こんなの無理」って思いながら、どの方向からいつ何がくるかと身構えて肩に力入りっぱなし、ゾワゾワしっぱなし。

じいさんもばあさんも、ひたすら不気味! 私なら、初日で逃げ出すわ……。

ばあさんのお尻!! 笑うわ! そして怖いわ!
キーワードは、オーブンの掃除、床下の鬼ごっこ、夜中のカリカリ音、オムツ、丸見えのお尻……笑

くるぞくるぞ……と構えていると、スッとすかされ、和やかな気分で油断している時に、予想外の角度から、急にくる。
そこらへんのバランス、緩急のつけ方、怖がらせ方が抜群にうまい。

シャマラン見直した!
『アンブレイカブル』も『サイン』も、そういう見方をしたら、本当は面白いのかもしれない。私が未熟でした。全力で謝罪。

一つだけマイナス点としては、ほぼ全編ハンディカメラの映像なので、見づらかったなぁ。演出としては効果的なのかもしれないけど、ちょっと酔いました……。

セッション(2015年)

『ラ・ラ・ランド』の監督デイミアン・チャゼルの出世作。

『セッション』で伝えたかったことを、マイルドに万人受けするように作ったのが『ラ・ラ・ランド』だったのかな、と思いました。
まったく違うアプローチなのに、着地点は同じ。
『ラ・ラ・ランド』も大好きだけど、狂気じみた『セッション』のこの感じも嫌いじゃない!

名門音楽大学に入学し、世界的なジャズドラマーを目指す青年と、“これぞ、パワハラ! モラハラ!”なスパルタ指導をする鬼教授の話。

主人公の青年と同化して自分ごととして見てしまうと、苦しすぎて途中で見ることができなくなるかもしれませんが、私はシュールなコントとして俯瞰で見ていたので、終始、笑いっぱなしでした。
鬼教授だけでなく、生徒のほうも相当イッちゃってるので。

私だったらこんなシゴキには耐えられないです……。恐ろしすぎて、身体中のいろんな穴からいろんな液体が出てきちゃいます……笑

この映画、ものすごくイヤな気分にもなるけれど、そこを耐えた先に、震えるような爽快感とカタルシスがある。
いろいろとイタい二人、この二人にしかわからない高揚感“狂気のセッション”。ある意味、うらやましい。

「生半可な気持ちで夢を追うとか、アホかっ!」って言われているようで胸が痛くなりました……。

【今日のまとめ】

“分からないこと”を面白がる、“恐怖と笑い”は背中合わせ、そんな作品を紹介しました。
何か怖いことがあった時、自分の理解を超えたものに遭遇した時、人は精神の崩壊を防ごうとして「笑う」という行動をとるそうです。

世の中は不条理に満ちている。それは、雨が降るのと同じことで、もう受け入れるしかないのです。
雨の日に人はどうするか。
・家の外に出ない
・傘をさす
・雨をよけながら歩く
・雨がやむまで待つ
・雨が降っていない場所へ移動する
・てるてる坊主に怒りをぶつける
・森高千里の『雨』を熱唱する
・雨の中、泣き叫びながら走る
・新しい「晴れ乞い」の儀式を考える

など、いろいろあるかと思います。
雨の日にさまざまな対処をするのと同様に、世の中の不条理に対して自分なりの対処法と工夫があれば、ちょっとだけ生きるのがラクになるのかなぁと思いました。

緊張する場面や不謹慎と思われる場面で笑ってしまうのは、人間の防衛本能。笑ったっていいんです。


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■ダークレイン(2017年)
監督・脚本:イサーク・エスバン
出演:グスタフォ・サンチェス・パッラ、カサンドラ・シアンゲロッティ

■ヴィジット(2015年)
監督・脚本:M・ナイト・シャマラン
出演:オリヴィア・デヨング、エド・オクセンボールド

■セッション(2015年)
監督・脚本:デイミアン・チャゼル
出演:マイルズ・テラー、J・K・シモンズ

隔週水曜更新。次回の更新は6/28(水)です。

更新日:2017/12/26
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