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【第11回】ラブ&ピース(2015年)

そしてカメはゆっくりと、ただひたすらにまっすぐ突き進む

筆者:こしあん
映画・海外ドラマ、読書、お笑い、カメが大好き。特技はイントロクイズ(80年・90年代ソング限定)。
怖がりのくせにホラーとミステリーが大好きで、生まれ変わったらFBI捜査官になりたい。
休日にどれだけ家にこもっていてもまったく苦にならない超インドア派。
ゆるい解説と小学校から上達していないイラスト(ときどき)で、好きな映画を紹介していきます。

ラブ&ピース(2015年)

前回はちょっと暴走しすぎて、かなり怖めの映画を紹介してしまったので、今回はクリスマスにぴったりの《愛》があふれる作品です。
といいつつ、私がストレートにハートウォーミングな作品を紹介するわけがなく、星飛雄馬の消える魔球くらい打ちにくい変化球ですよー。
あぁ、全然関係ないけれど、星飛雄馬・クリスマスで思い出しました。
アニメ『巨人の星』の“迷”シーン。星飛雄馬が企画し、気合いを入れて入念に準備したクリスマスパーティに、招待した友人が誰一人来ず(明子姉さんさえも!)、ブチ切れてめちゃくちゃ暴れるというシーンがあります。
あの悲しさを思えば、たいがいのことは乗り越えられます……。

いきなり脱線してしまいましたが、今回の作品は、私の大好きな監督の一人・園子温の作品です。
『愛のむきだし』『冷たい熱帯魚』『恋の罪』など、ハードでグロくてエグくて、でも叙情的な作品が多く、私は毎回心をわしづかみにされているのですが、好き嫌いが極端に分かれる監督かと思われます。

園子温作品は、初めてタイ料理を食べた時の気持ちに似ています。
何この見たこともない食材、食べれるの? なんか不思議なにおいがする……うわぁ、辛っ! あれ、でも甘みもある……と思ったら酸っぱいし、醤油っぽい味もして、なぜか美味しい!! あー、でもやっぱり辛っ! でもクセになるうぅ、もっと食べたい~。
そんな感じです。

『ラブ&ピース』はそんな園子温作品の中ではマイルドな作品なので、入門編として、ちょっとのぞいてみるのもアリです。
とはいえ、独特の世界観は健在なので、ダメな人はダメかもしれません……。

次のどれかにあてはまる人は、観て損はないと思います。
□とにかくカメが好き
□長谷川博己の七変化が見たい
□声だけでもいいから星野源を感じていたい
□サンタクロースを待ちわびている
□シュールなおとぎ話が好き

幸い私はすべてにあてはまります。
そして、カメ好きの私にとっては、たまらないシーンのオンパレードです。
園子温、やっぱり好きだわー。と再確認した作品です。

とにかくかわいいカメ

ちなみにこれは我が家の【かめ吉】。オスだと勝手に決めつけて、10年以上ずっと【かめ吉】と呼んでいましたが、ちょっと前に動物病院で診てもらった時にメスであることが判明しました……。
ごめんね、ごめんねーー。

うちの【かめ吉】はロシアリクガメという種ですが、『ラブ&ピース』に出てくるカメは、デパートの屋上で売られていたミドリガメなので、見た目はだいぶ違います。
カメにまったく興味のない人からすれば、そんなん知らんわ、という気持ちでしょうが、リクガメ、ヌマガメ、クサガメ、ウミガメなど、カメにもいろいろあるんですよ。

まぁ、カメの話はこれくらいにしておいて、まずはあらすじ。

冴えないサラリーマン・鈴木良一(長谷川博己)は、以前はロックミュージシャンを目指していたが挫折し、今はふがいない毎日を送っている。同僚の寺島裕子(麻生久美子)に想いを寄せるも、コミュニケーションが苦手で、まともに話すこともできない。
ある日、デパートの屋上で一匹のミドリガメと出会い【ピカドン】と名付けて大切に育てる。孤独な良一にとって、ピカドンだけが友達。自分の夢や裕子への想いを、ピカドンに語りつづけていたある日、思いもよらない方向へと人生が変わっていく。
言葉を話し動きまわるたくさんのおもちゃたちと、地下で暮らす謎の老人(西田敏行)も巻き込み、クリスマスの東京の街にとんでもないことが起きる……。

笑いながら泣くことの心地よさ

ハチャメチャな話なのに、どうしようもない閉塞感や抑圧された願望、まっすぐな愛が伝わってきます。
オープニングからずっと「何コレ、何コレ」って笑いながら観てるんだけど、最後、不覚にも泣かされる!!

思いもよらぬ方向から飛んでくる“魔球”に、「なんでもアリだな!」と爆笑しながらも、心をゆさぶられ、ぐちゃぐちゃに泣くことの快感ってなかなか味わえません。

ちょっとティム・バートンぽさもあるダークファンタジーと言えばいいのかな。
西田敏行が演じる謎の老人と、しゃべるおもちゃたちは、『トイ・ストーリー』ぽさもあったり。

氷山は見えているところはほんの少しだけど
その下にでっかい本当の姿があるんだよ

そう言ってピカドンにひたすら話しかける長谷川博己の哀愁!

最初は見た目も中身も本当に冴えなくて、会社でもからかわれてばかり。
でもミュージシャンとしてデビューすると、いきなり大変身!!
長谷川博己のいろんな表情、いろんな“コスプレ”が見られます。
改めて、演技派だなぁと思いました。

それから、今もっとも話題の人・星野源。
しゃべるおもちゃ「PC-300」の声を演じています。
しゃべる人形「マリア」の声は中川翔子。
捨てられたおもちゃの悲しみ、それを隠して明るく生きようとする健気さ、助け合うおもちゃ同士の連帯感、二人とも声だけでそういう部分をとても上手く表現しています。

【今日のまとめ】

驚くほどにゆっくりと平和に歩く巨大なカメ。
愛をもってまっすぐに、大切な人に大切なことを伝えるために。

しかし、カメを飼っている身としては、カメには確かにああいう不思議なパワーがあるとけっこう本気で思ってます。
人間よりもはるかに深く、世界を見通しているんじゃないか、そう思わずにいられない。

この映画の主人公・良一にとって、ぽっかり空いた心の隙間を満たすピース(かけら)は、ピカドン。
クリスマスの夜、あなたにとっての《ピース》を探してみてください。


【今日のまとめ】
カメに宿る不思議なパワー
世界はカメに支えられている?!


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■ラブ&ピース(2015年)
監督・脚本:園子温
出演:長谷川博己、麻生久美子、西田敏行

【公式HP】
(C)「ラブ&ピース」製作委員会

隔週水曜更新。次回の更新は12/21(水)です。 

更新日:2017/2/15
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