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大やきいも/「手間のかかることこそ大切に」代々受け継がれてきた思い

大やきいも/「手間のかかることこそ大切に」代々受け継がれてきた思い

静岡市葵区長谷通りにある「大やきいも」は、明治時代創業、100年以上の歴史がある老舗店。やきいもやおでん、大学いも、おにぎり、かき氷などが楽しめる。自慢の一品についてや、大切に受け継いできた思いを4代目店主 中村さんに伺った。

代々使い続けた釜で焼き上げる、絶品のやきいも

駿府城のお堀のそば、静岡市葵区長谷通りにある「大やきいも」は、明治時代にやきいも店として創業された、100年以上の歴史がある老舗店。
家族連れや観光客など、平日も開店からたくさんのお客さんで賑わう。

「大やきいも」で楽しめるのは、店名にも付いているやきいものほか、おでん、大学いも、おにぎりなど。
夏季にはやきいもはお休みし、かき氷を提供している。

お店に入ると、おでんのだしのいい香りが。
懐かしくて、ここだけ時が止まっているような不思議な感覚になる。
お話を伺ったのは、4代目店主の中村さん。
「ちょうどやきいもが仕上がりますよ。見ますか?」と声をかけてくれた。

代々使ってきたやきいも専用の大きな釜で、じっくり火入れをして仕上げる。
絶妙な火加減が味を決めるそうだ。
焼き上がったら重いふたを開け、まだ蒸気の上がっている釜から手早くざるに上げていく。

甘くてやわらかい口当たりの「べにはるか」のやきいもが人気

すると、さっそくやきいもを求めてお客さんが訪れた。

「大きいのにする?小さいのにする?」と店員さん。
選んだやきいもの重さをはかりで測って、包み紙に値段を書いてくれる。

まだほかほかと温かいやきいも。
表面はこんがり香ばしく、中はしっとりとした食感だ。

大切に受け継いできたおでんのだしと、そのおいしさの秘密

「大やきいも」は、おでんも自慢のひとつ。
食べたい具を店員さんに伝えると、お皿に盛ってくれる。お好みでだし粉をかけ、からしを付けていただくのは静岡ではスタンダードな食べ方だ。

「うちのおだしは牛肉と昆布がベースで、おでんを始めてから約80年、ずっと継ぎ足して使っています。練り物のうまみもいい具合に溶け出していて、深い味わいになっていると思いますよ」と中村さん。

「大やきいも」のおでんの具には、大根がない。
定番といわれる具がないのはなぜだろう。そのわけを中村さんに伺った。

「大根ってね、だしを吸って水分を出すんです。そうすると、煮込んでいくうちに大根自体はとってもおいしくなるんだけど、結果的におだしを薄めてしまうことになるんですよ。だから、長年継ぎ足してきたおだしの味を守るために、あえて大根は使わない。人気の具なんだけどね(笑)」

「大根ないんだ、残念」と言われることも多いそうだが、訪れる人たちに知ってほしい、代々続く大切なこだわりだ。

おすすめの具はありますか?と尋ねると、
「人気のものと、あまり頼まれないけどぜひ食べてほしいものがあります」と中村さん。せっかくなので、両方伺った。

「牛すじや黒はんぺんは、やっぱり不動の人気ですね。あと、あまり知られていないのが、静岡ならではの具材の『しのだ巻き』と『白焼き』。どちらも魚のすり身を使っているんです。あまり知られていないけれど、とってもおいしいのでぜひ味わってほしくて」

一番奥が「白焼き」、一番手前が「しのだ巻き」。セルフサービスの静岡茶ともよく合う

中村さんのもうひとつのおすすめは、じゃがいも。
ていねいに洗って干し、ホクホクにふかしたあと、だしをたっぷりと染み込ませる。仕込みに3日はかかるという、手間のかかった一品だ。

おでんにもよく合う「おにぎり」。食べたい具と個数を紙に書いて注文するスタイル

握りたてのおにぎりはほかほかでとてもおいしい

100年以上続けてきたこと。それは「大やきいも」にとっての財産

中村さんが一番大切にしていることを尋ねてみた。

「受け継いできたものを変えないことですね。“100年以上続けてきたこと”は簡単には真似できないうちの強みなんです。やきいもの作り方、使っている釜、おでんのだしや、空間づくり……正直、手間もお金もかかるものばかり。それでも何かを変えてしまったら、お店を1から始めるのと一緒ですからね」

大学いもの蜜やかき氷のシロップは、「お客さんが、安心して食べられるものを」と手作りにこだわる。
さらにお店では、おでんにも合う「お酒」をあえて提供していない。
それは、いつも通ってくれる親子連れや子どもが居心地のいいお店づくりをするためだそうだ。
これらは、先代からずっと変わらない。

簡単で便利なものにお金が払われる時代。
昔からある手間のかかるものや技術は、いつしか消えていく運命なのかと考えたという。
やめるのは簡単だ。それでも「変わらないね」と言ってくれるお客さんの笑顔をいつまでも守っていきたいと、中村さんは覚悟を決めた。

「いつまで続けられるかわからないけど、体が元気なうちは夫婦で頑張りたいな。
そのうち時代が変わって、少しずつ『めんどくさくても古くても、いいものはいい』と考え方が変わっていかないかな、と少しだけ期待しています」

思いおもいに過ごすお客さんたちを嬉しそうに見つめながら、中村さんはそう話した。
長く繋がれてきた思いを感じながら、「大やきいも」でゆっくり過ごしてみてほしい。

大やきいも

住所/静岡市葵区東草深町5-12
営業時間/10:30〜16:30
定休日/月曜、火曜(不定休あり)
電話番号/054-245-8862
駐車場/8台

ライター
WOMO編集部 坂本

その人らしさやそこにある想い、空気感、手触りを大切に書いています。まちを歩いて、自分だけの“好き”を見つけることの楽しさを、文章を通して伝えられたら嬉しいです。

更新日:2024/4/19

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